橋下大阪市長の「慰安婦問題」についての発言が物議を醸しているようである。
毎日新聞の十五日の紙面「クローズアップ2013」では、「橋下流暴走」「日米関係にきしみも」などの大見出しがつけられているものの、その発言のどの部分が不適切であるかの説明はない。
しかし、一面下の「余録」で次のように述べている。
「(前略)事と次第によってその口を出たとたんに全世界の人々に伝わる今日の政治家の言葉である。
その発言が二一世紀の文明の基準を逸脱し、世界の心ある人々の嫌悪を招けば、自らの国の名誉を損ない、外交にも悪影響を及ぼす。
(中略)では、第二次世界大戦の日本陸軍の従軍慰安婦制度についてのこの発言はどうか。
『精神的に高ぶっている集団に休息させてあげようと思ったら慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる』。
軍の規律を維持する為に当時それが必要だったとの橋下大阪市長の発言である。
(中略)驚くのは、自ら明かした沖縄米海兵隊の司令官とのやりとりである。
橋下氏が『兵士の性的エネルギー発散にもっと風俗業を活用して欲しい』と提案したところ相手は困惑しつつ『(売春は)禁じている』と語ったという。
聞いただけでも顔から火が出る問答だ(中略)ことは現実に影響力を振るう政治リーダーの発言である。
女性を道具扱いするような物言いが今日の世界で激しい嫌悪を巻き起こさぬはずはない・・・」
橋下氏の発言を直接聞いたわけではないが、「余録」に記された通りのことであるなら、政党維新の会を代表する政治家の発言としては、甚だ不適切であると言わねばならない。しかし、ここには検討すべきいくつかの問題があるように思われる。
第一に、橋下氏は、公娼制度が存在していた七〇年前の従軍慰安婦制度を、当時としては必要であったのだろうと言っているのである。
余録はそれを売春防止法が施行されて半世紀以上も経過した今日の社会的基準で非難しているが、それはおかしいのではないか。
今日のような裁判制度のなかった時代の赤穂四十七士に対する幕府の処分が、裁判手続きを経ないで行われたのは不等であるなどと言うようなものではないか。
第二に、歴史を遡れば、江戸時代はもとより、売春防止法施行前まで、貧しい農家では、冷害などによる不作の年には、娘が身を売ることはしばしば行われていたのは事実である。
兵隊を相手にする慰安婦も、その一環で有り、その家業に従事することは、苦衷の決断であったにしろ本人も納得の上のことであり、身代金は多くの場合親の手に渡されている。強制拉致されたもののごとく考えているとすれば、それは間違いである。
第三に、慰安婦を活用していたのは、日本軍に限らず、軍隊のたむろするところには、影の形に添うごろく売春婦が出没し、しばしば売春業者が跳梁したものである。
第四に、「人類のある限り戦争と売春は無くならない」とも言われるように、街娼は政治体制の如何に拘わらず、欧米諸国をはじめ世界各地に居るようであり、日本でも売春防止法が施行されている今日なお、売春が行われている現実は無視出来ない。
第五に、戦場では売春以上に女性の人格を無視した輪姦など残酷な事が行われている。
などなど、この問題を巡っては考えさせられることが少なくない。
マスコミは建前論を振り回していれば事足りるのだろうが、社会の現実を少しでもよくしようとするには、本音で討論することが必要である。
とかく無責任な建前論ばかりで、現実から逃避しがちな世論を突き破る事を意図しての橋下発言であったのかも知れないが、勢い余って勇み足したというところか。
いずれにしても、問題提起と捉えてはどうだろう。
(平成二十五年五月十六日)