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「ちょうむかつく」

新聞広告に誘われて注文した「日本の大和言葉を美しく話す」(高橋こうじ著)が届いた。早速目を通してみたが、掲げられている大和言葉は、我々が日常使用している言葉がほとんどで、いささか期待外れであった。

しかし考えてみると、私たち年金族の日常語は今日の現役世代の人々から見ると、時代遅れの言葉が少なからずあって、この本を見て「そうそう以前はこんな言葉を使っていたっけ」ということなのかも知れない。

言葉と言うものは生活様式の変化とともに変遷していくもので、私たちのためには、逆に新語辞典と言われるようなものが必要なのだろうが、カタカナ語辞典はあるが、若者たちが使用する新語を収録したものは未だ無いようである。

そんなことで、テレビなどにも登場する若者語は理解できないことが少なくない。子や孫たちに解説してもらおうにも、離れて暮らしているのでそれもできず、諦める他はなく、その結果テレビもあまり見なくなってしまった。

それはさておき、私が聞くに耐えないのが「ちょうむかつく」である。「むかつく」は我々も使用する言葉で、若者語とは言えないが、口に出し、耳にするだけで不快になる言葉で、滅多に使用するものではない。

「ちょう」は何だろうと思って広辞苑(第六版平成二十年発行)を見ると。
ちょう【超】①(接頭語的に)程度一杯をさらに超える意。「超満員」 。②俗に、その語の内容をはるかに超えていること。「ちょう忙しい」 ③(接尾語的に)ある数値を超えていることを表す。「一万人超」と説明している。

ついでに「むかつく」も引いてみる。
むかつく ①胸がむかむかする。吐き気をもよおす。「飲み過ぎて胃がむかつく」 ②癪にさわって腹が立つ。「相手の態度にむかつく」。

さらに昭和五十八年発行の広辞苑第三版を見ると、それぞれ次のように記載されている。

ちょう【超】①とびこえること。程度を超えること。「超過」「超越」「超満員」 ②普通のものよりもかけ離れてすぐれていること。 「超然」「超人」

むかつく ①胸がむかむかする。吐き気をもよおす。②癪にさわって腹が立つ。

これらを見ると「ちょう忙しい」「ちょうむかつく」のような「ちょう」の使用は昭和末期以降に登場してきたものと推測される。だから今日では主として若者が使用する新語と言っていいだろうが、あと二~三十年もすれば、日本人みんなが使用する言葉として定着するのではと思われる。

「むかつく」の意味するところは昔も今も変わりないようであるが、私たちが違和感を感じるのは、若者の使用頻度があまりにも多いところにあると思われる。言い換えれば私たちに比べて今の若い人々は些細な現象にも敏感に反応することにあるのではないか。

例えば臭気に対する感受性で見れば、我々が育った昭和初期は水洗トイレはなく汲み取り式であったし、道路に牛馬の糞が散乱している風景も珍しいものではなかった。また我が家に網戸を取り付けたのは昭和四十年前後で、それまでは蚊や蠅は家の中を飛び回り、夏の蚊取り線香は必需品であった。

その他生活様式の変化、衛生設備の普及などなど考えてみれば、よくまああんな環境の中で我慢して暮らしていたものだと、自分自身で驚くほどである。
こうしてみると、今の若者が「ちょうむかつく」を頻発するのも分からなくはないが、考えてもらいたいのは、それを口に出して言ってみても、それで自分の気持ちが爽快になるものでもなく、その言葉を耳にする人々を不快にするばかりであるということである。

また、これほど生活環境の整備された国は、世界中にあまりないということと、そんな有り難い国に住んでいることを忘れず、いつまでも大事にしてもらいたいものである。

(平成二十七年三月八日)

ramtha / 2015年7月3日