長谷川慶太郎氏著の「中国大減速の末路」に次のような記事があった。
著者らの調査では、2014年一年間で、中国から日本へ行われた投資は二千億円を超えている。その中で最も投資額の大きな企業が、中国ナンバーワンの電力会社である上海電力である。国有企業のトップクラスの上海電力が資産の海外逃避を始めているのだ。上海電力の経営陣は江沢民一派である。
同社は日本国内で太陽光発電事業を進めており、2014年5月に日本で最大のソーラー発電所「大阪南港太陽エネルギー発電所」の第一号をすでに竣工・稼働させた。大阪以外にも、福島県や栃木県などで発電所を立ち上げる予定であると言う。
この上海電力が日本にソーラー発電所を作り、発電事業行ったところで一体年間にどれほど稼げるか。売却される電気代は十五億円程度にしかならない。採算が取れるわけがない。しかしながら、彼らの目的は財産を日本に移すことである。したがって、さらなる発電所の建設が行われる可能性は大きい。
彼らの資金は、中国の国有銀行から出ている。習近平政権もその意図は分かっていても、江沢民の頭を撫でるためには、出資を容認せざるを得なかったのである。
中国国内で混乱が起これば、上海電力もどうなるかわからない。そのために資産を安全な日本に移しておこうと言う意図であろう。共産党幹部だけでなく、経済界のトップ層も資産逃避にしのぎを削っている。資産を実物の設備で残しておくことは、いざという場合には非常に有利なのである。民主党の菅直人政権の時には、ソーラー発電力の買取価格は1キロワット42円であったが、安倍政権になってからは、その価格は下がる一方である。やがては22円まで下がるのではないかとみられている。
そうすると、ソーラー発電の事業採算性は一挙に下がる。とても投資価値は無いはずである。しかし、彼らは中国政府の許可を得て、四大国有銀行からの融資を得て実行する。採算は悪くても実物資産として残れば良いのである。まさに合法的な資産逃避以外のなにものでもない。このような資産逃避の動きは、日本に限った話ではない。2014年9月19日にニューヨーク証券取引所に上場し、史上最大となる250億ドル(約3兆円)もの資金を調達した電子商取引歳大手のアリババグループは、中国から資金をシフトした典型的な例である。年間30兆円を上回る売り上げを誇るアリババグループのニューヨーク証券取引所の上場が意味するのは、中国からの資産逃避なのである。
その証拠に、アリババは香港でも上海でも上場していない。上場したのはニューヨーク市場だけで、株式もドル建てである。資産を中国に持って帰っても意味がないので、米国に置いておくということになる。つまり、アリババは見事に中国を「売り抜けた」と言うことができる。同じような動きが今後も続く事は間違い無い。中国で、高い成長力を持つ民間の新興企業の経営者たちは、ニューヨーク市場に上場するなどをして、いかに合法的に中国を逃げ出していくかを考えているのである。
前に、中国共産党幹部や国有企業のトップなどが、妊娠した妻や愛人等を米国へ渡航させ、そこで出産させる話をものの本で読んだ。それによるとアメリカは出生地主義だから生まれた子供は米国籍を取得する。その子をいわば橋頭堡としてまずその子の母親に資産をつけてアメリカに移住させておく。そして汚職が暴露する等で自分の身に危険が及ぶときは、いち早くアメリカへ亡命すると言う。
このような話が現実に行われているとすれば、習近平が汚職撲滅を最大の課題とするのは納得がいく。しかし今や特権階級となった共産党党員の規律を正す事は容易なことではないと思われるし、汚職撲滅を真剣に行おうとすればするほど、経済活動が萎縮し、経済発展が阻害されることになりはしないだろうか。
眼前の利益が何よりも優先する中国人を統御するのは、一党独裁の習近平でも不可能ではあるまいか。いずれにしても当面その成り行きに目が離せない。
(平成二十七年八月十七日)
ramtha / 2016年1月21日