長谷川慶太郎氏著の「二〇一五年~世界の真実」の中に日本とは桁外れなアメリカの一面を見る記事があった。アメリカ人を知る上で興味があったので書き留める。
アメリカは所得格差が大きいと報道等で言われている。現実はどうなのか。
ウォール街のファイナンス・コーポレーションのトップは平均で大体百万ドル(約一億円)位だ。日本流に言えば課長クラスにあたる中間管理職の平均が大体四十万ドルから五十万ドル位である。具体例を挙げると、バンク・オブ・アメリカと言うアメリカ最大の銀行は約五万人が働いているが、一番の高給取りがCEOで七百万ドル、クラークと言う銀行の窓口をやるような一番下の人は時給八ドルだから、年間二千時間働いたとすると一万六千ドルである。ただ、コロラド州で会った八千ドルの申告をした農民は年収一万六千ドルのクラークにはならないだろう。一時的になったとしても、いずれは農業を選択したように思う。
また金持ちにもいろいろな人間がいる。
アメリカ大統領の就任式では、連邦議会からホワイトハウスまでの間をパレードし、道路の両側は見物人で溢れかえる。この道路に面して二十五階建てのホテルがあり、最上階がバンケットルーム(宴会場)になっている。オバマ大統領の就任パレードを見るために、そこを借り切りたいと言う人が出てきた。ホテルにとっては四年に一回のことだから、簡単に応じられない。そこで百万ドルと言う値をつけた。するとその人はオーケーと言った。大統領のパレードを見物するために百万ドルをポンと出したのは、太平洋に面するワシントン州のタコマと言う街に住む男で、その名をワシントンDCでは誰も知らない。ホテルの支配人は取引銀行に電話をかけて照会したところ、取引銀行の支店長から次のような回答があった。
「その人から百万ドルのチェック(小切手)が回ってきても不思議ではない。預金残高は平均して五百万ドルから六百万ドルである」
日本なら普通預金口座に常時五~六億円があるということだ。そこから先がアメリカだった。百万ドルで借り切ったバンケットルームの窓をワシントンDCの孤児院の子どもに開放したのである。
このエピソードをアメリカのテレビ局が取り上げ、私はテレビを通じて知った。アメリカの金持ちの中にはそういうことを平気でやる人がいる。ウォール街やマスメディアの記事だけを見ていると錯覚しがちだが、広い国土には想像を超えた人がいる。アメリカはそういう国である。
私がアメリカ各地を見て回ったのは昭和三十七年(一九六二年)のことだから、半世紀も前のことになる。一九六二年のアメリカは旧ソ連と対峙する冷戦の中であったが、いわゆるゴールデン・シクスティーズの輝かしい時代で、社会秩序は安定し、生活水準から大衆のマナーまで目にするもの全てが羨ましい限りであった。
その後ベトナム戦争の泥沼を潜り、アメリカ社会も、激変したと聞いていたが、久しぶりに明るいアメリカに出会い、心温まる思いがした。
(平成二十七年九月十七日)
ramtha / 2016年2月2日