長谷川慶太郎氏の「二〇一五年~世界の真実」には、新聞やテレビなどのマスコミでは知り得ない、世界の断面に触れることがしばしばあって、隠居の徒然を楽しませてくれる。今日は中国の公害について見る。
社会主義経済の特性を「計画経済」と表現するが、改革開放以来、中国経済は「無計画経済」である。そのために公害を防止しようとしてもなかなか進まない。それはまた過剰生産にも言えることである。
中国の粗鋼生産高は七億八千万トンで、全世界の約半分を占めるが、余剰生産が二億から三億トンあると見られている。日本の粗鋼生産高は約一億トンだから、二倍以上だ。また、製鉄などのために石炭を輸入しているが、その在庫が一億2千万トンと推定される。これも日本の製鉄会社が一年間に使う量のおよそ二倍だ。
こうした状況に対して、習近平政権は「鉄鋼、セメントなどの五業種は、建設工事や設備拡張する場合、中央政府の認可を得なければならない」と命じた。旧式の設備を廃止し合理化を進めようとしたのである。しかし「上に政策あれば、下に対策あり」と言われる中国のことである。中央の統制に対して、地方政府も民間企業もあの手この手ですり抜けようとする。
もちろん中央は地方政府や民間企業を信じていない。そこで、実力行使に出た。人民解放軍の工兵隊を使い、北京、天津、河北省の石家荘などで、中小企業の工場を壊し始めたのである。中小企業は生産停止を命じられると、一旦はストップするが、頃合いを見計らって操業を再開する。したがって壊さないとどうにもならないのである。
北京で全国人民代表大会が開かれた二〇一四年三月五日から十三日までの期間中、工場を破壊する映像を中央テレビが毎日流した。そして、李克強首相は全国人民代表大会の代議員に「ホテルの部屋でテレビを見ろ。何が起こっているかよく分かるはずだ。帰ったら同じことをやってくれ」と指示したと言う。
私が見たのは、石家荘の高さ十メートル位の高炉を爆発するシーンだが、当初、生産停止命令は過剰供給能力を調整するためだった。しかし、今は公害対策と言う目的も加わっている。したがって、小規模な高炉だけでなく、煤煙と排煙を撒き散らす旧式のキルンも壊されている。
鉄鋼などの五業種に対して、新設や拡張に許可がいることとしたことと、工場を破壊していることを考え合わせると、重点は公害の抑制にある。そのために経済成長を犠牲にすると腹をくくらなければならないほど、公害が深刻なのである。二〇一四年の実質経済成長率の目標を7.5%と掲げながら、中国政府は7%位でいいと考えている。
これは公害を押さえ込む事と、不良債権処理を想定してのことだと私は分析する。実際の話、生産拠点をつぶしていきながら、どうやって二〇一三年より7%の経済を拡大できるか。二〇一四年の経済成長率は高くても5%前後だろう。
先頃行われた北京での世界陸上選手権大会では、出場選手への健康被害が憂慮されるほど、中国の大気汚染は甚だしいようである。北京ではここ十年の間に肺ガン患者が六割増加したと言われている。また中国東北部の黒竜江省や吉林省では、重度の大気汚染が発生し、小学校と中学校が休校になったとも伝えられている。
日本でも高度成長期には、北九州等の工場地帯の大気汚染はずいぶん騒がれたものだが、その後官民挙げての努力によって、今では世界に誇る環境モデル都市となるまでに改善された。
中国は共産党の独裁国家だから、政府の命令ですぐにでも改善出来るのではと思われるが、日本の三十倍近い面積に、十倍以上の人口を抱えるスケールでは容易なことでは無いに違いない。今日でもPM2.5が飛来している中国の大気汚染は他人事ではないが、経済の停滞による混乱も対岸の火事と傍観しては居られない。
このところ連日、ドイツへ押しかけている中東難民の映像を見るにつけ、中国の行く末が気にかかってならない。
(平成二十七年九月二十日)
ramtha / 2016年2月4日