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「TPPと日本の農業」

最終段階に来て、大もめにもめたTPP交渉も、ようやく最終的合意に到達したようだ。日本代表の甘利大臣が、大変なご苦労されたと伝えられている。「お疲れ様でした」と、まずは謝意を表すべきところであろうが、小規模農家主体の日本農業には、苦難の始まりとも言われている。

昨日の毎日新聞では、この問題に関して「岐路に立つ農政」と題する解説を載せている。農業問題については全く無知な私には教えられることが少なからずあった。まずはその冒頭部分を次に転記する。

新潟県東部の阿賀町。中心部から車で山道を約30分進むと、集落の合間に棚田が点在している。「最高のブランド米を生む田圃です」。ここで有機農法の稲作を営む、農業生産法人「越後ファーム」の近正(こんしょう)宏光社長(43)が胸を張った。

計約20ヘクタールの棚田で農薬や肥料を極力使わずに育てた米は「安全・安心」な上、ほのかな甘みと粘り気が富裕層等の心をつかんだ。肥料を一切使わない「自然農法米」は1キロ5,000円を超える。東京都内の百貨店で贈答用に売れる。

順風満帆に見えるが、農業参入は規制や慣習に阻まれた。勤めていた東京の不動産会社から、事業拡大のために農業参入を指示されたのが2004年。各地で耕作地を探したが、役場や農協、農業委員会(地域の農家などで構成)から「よそ者には貸せない」と追い返された。

貸した農地が荒らされる事例が頻発していたからだという。二年後に知人のつてをたどって見つけた場所は、使い勝手が悪い約30アールの棚田だった。だが、徹底的に手間をかけて品質とブランド力を高める戦略が当たった。

農作業は地域の農家の手を借り、近正さんは都内で必死の営業。販売を伸ばして棚田を約70倍に広げた。精米工場のコンサルタントとしてトヨタ自動車の元技術者を迎え、手順書や作業場の配置、勤務シフトを徹底的に見直す。

近正さんには、日本の稲作は自ら成長の芽をつぶしているように見える。耕作放棄地は農地面積全体の約1割、滋賀県に匹敵する40万ヘクタールまで拡大している。それなのに、新規参入や農地集約のハードルが高く、新たな担い手が育たない。農地を借りるには、農業委員会の許可が必要だ。農業生産法人の経営者は、年60日間は農作業で地元にいなければならず、営業の障害になる。近正さんは、「TPP (環太平洋パートナーシップ協定)には賛成。農業は守られているだけでは先がない。これをきっかけに変わらなければ」と強調する。

日本農業にとって、5日に大筋合意したTPPは「黒船」に他ならない。安い輸入農産品の増加が農家の経営を直撃するからだ。一方、政府はTPPをてこに大規模化など農業の体質を強化する改革を進める方針だ。農地集約や新規参入を大胆に進めて新たな担い手が育てば、日本農業がジリ貧状態を脱する糸口になる。

しかし、こうした改革は経営基盤の弱い農家の淘汰につながる。政府・与党は小規模農家の不満が膨らむことを警戒、自民党農林族からは大規模な農業支援策を求める声が強い。ただ、単なるバラマキでは「強い農家」は育たない。農政は大きな岐路に立っている。

農業については全く無縁の私には、この問題について語る資格は無いが、これまでの日本の農業政策の変遷について感じていることをまずは整理してみる。

① 戦中・戦後の食料不足から農地の拡大のため、秋田県八郎潟や長崎県有明海の干拓事業が計画された事は理解できる。ところがお役所仕事は決済手続きが煩雑なのか時間がかかる。
一方、戦後食料不足の支援としてアメリカから大量の小麦が輸入された。長年米食に親しんできた日本人にはパン食を勧める工夫もされていた。米食では脳の発達が遅れる。戦争に負けたのも米食のせいだと言う馬鹿げた話がまことしやかに流布されたこともあった。

昭和三十年代に入り、国民の生活が豊かになるとともに日本人のコメ離れが始まってきた。
にも関わらず、稲作増産政策が進められ、昭和三十二年、八郎潟干拓は始められている。また有明海干拓は有明海を漁場とする水産業者の反対運動があったにも関わらず強行されている。
なお有明海干拓については未だに有明海復活を求める漁業組合との間で水門開閉問題が農水省の難題となっている。

この他の問題でもお役所仕事では、政策決定時以降、環境変化により当初決定の政策が不適切となった場合の対応がされず、無駄な工事が行われているように思われる。役人の経験のない私には、官庁では先輩の企画決定した政策を覆すことが憚られる仕来りでもあるのではと邪推したくなる。

② 農地委員会や農業委員会の現状については、何も知らないから、ここに記されているような頑迷固陋なものかどうか私には分からないが、私が長男の所有地に茅屋を立てるとき、登記簿上、農地となっているから農地委員会の許可が必要と聞かされて驚いたことがある。

もともと雑草の生い茂ったところで、とても農地とは思えないのにどうして農地委員会が許認可の権限を有するのか理解できない思いをしたことである。

③ 農地委員会は、平地の少ない日本で農地を確保する目的で作られた機構であろうが、米余りで減反を余儀なくされる時代となったにも関わらず存続していることが不思議でならない。農水省の権限確保のためではないかと、これまた邪推されても仕方がない。

④ 農業以外の分野では、需要と供給によって成り立ち、需要が減れば、その業界は業種内の苛烈な競争によって弱い企業は自然淘汰され消滅していく。それが自由経済の原理であり現実である。なぜ農家だけが補償金等政府の支援が行われるのだろう。

脱落者への支援は転職の指導・紹介、失業保険や生活保護のセイフティーネットなど社会保障で扱うべき問題であり、減反補償等は邪道ではないか。

⑤ 国の食料自給確保と農家の自由競争とは別次元の問題である。混同されてはいないか、気に掛かる。この点については、この新聞記事でも触れていない。どうしてだろう。

⑥ 私の家の周りにも耕作放棄地が少なからずある。土地所有者は別の収入によって生活し、不自由は無いのだろう。しかし、平地の少ない日本で、全農地面積の約一割が耕作放棄地として、何にも利用されていないと言うのは、莫大な国家的損失ではないか。にも関わらず、この記事によれば「自民農林族からは大規模な農業支援策を求める声が強い」と記されている。政治家は政治家らしく、大局的見地に立って日本農業の発展に努力してほしい。

⑦ いずれにしてもTPP合意を機会に、わが国の農業を抜本的に改革し、再生してもらいたいものである。

(平成二十七年十月九日)

ramtha / 2016年2月13日