今月二十日の毎日新聞には、中国政府が一月に、一九七九(昭和五四)年以来実施してきた「一人っ子政策」を廃止したことに関連し、「一三〇〇万人 闇っ子なお」という「見出し」をつけて、次のような記事を掲載していた。
中国政府が一月に一人っ子政策を撤廃したことに伴って、二人目以降に科せられる罰金が支払えず、戸籍がなかった「闇っ子」の戸籍登録に本腰を入れ始めた。
二〇一一 (平成二三)年の発表で中国国内の無戸籍者は約一三〇〇万人。学校に通えず、医療保険などの社会保障も受けられない。だが一部の大都市は戸籍登録に慎重な姿勢を崩しておらず、解消には時間がかかりそうだ。
北京市に住む李雪さん(二二)は戸籍のない「闇っ子」だ。不条理な仕打ちに対し敢然と声を挙げ、国内外から注目を集めている。李さんには姉の彬さん(三〇)がいる。両親は第二子をもうける気はなかったが、母、白秀玲さん(五六)の持病のために中絶手術をできなかった。
五〇〇〇元(約八万七〇〇〇円)の罰金を要求されたが、当時の一家の月収は数十元。学校にも通えず、病院にも行けない人生を強いられてきた。李さんは「私の親は障害を持ち、罰金は払える額ではなかった。戸籍と関連づけられるのは心外だ」と訴える。
一九七九(昭和五四)年に一人っ子政策を導入した中国は、超過出産した国民に、年収をはるかに超える額の罰金支払いを科してきた。地方政府は罰金と引き換えでしか戸籍を与えなかった。問題視した国は一九八〇年代から繰り返し、地方政府に「戸籍登録と罰金を関連づけるべきではない」と指示してきたが、人口抑制の目標達成を重視する現場で無視され続け、「一人っ子政策最大の悲劇」と呼ばれながら放置されてきた。
中国政府は昨年十月、一人っ子政策を撤廃し、「二人っ子」政策に変更すると発表。関係部局は「闇っ子」の解消についても検討し、昨年十二月、中国共産党の重要会議で「闇っ子」の戸籍登録を徹底する「意見」を承認した。
ところが北京や上海などでは、戸籍登録を求める声に当局担当者が「細則が決まっていない」と対応を拒否する事例が相次いでいるという。三人目以降への罰金制度は存続しており「闇っ子」を生む構造は温存されている。
李さんも今年二月一日に地元公安局に戸籍申請に行ったが、いまだに回答はない。李さんは「政府が(政策見直しを)声高に強調するのはいいが、自分にはまだ戸籍がない。私の権利はこれだけ侵害されたのに、誰も責任を取らない」と指摘した。
また同じ二十日の質問・応答形式の「なるほどドリ」では次のように解説している。
Q:中国の戸籍制度は厳しいと聞いたけれど、どんな仕組みなの。
A:都市(非農業)戸籍、農村(農業)戸籍を区別し、出生地からの移動を厳しく制限しています。戸籍地でなければ、教育、医療保障、年金などの公的サービスを原則として受けられない仕組みです。Q:自由に引っ越しもできないんだね。
A:一九五八(昭和三三)年に現行の戸籍制度は始まりました。移住を規制して農村部の農業生産力を維持し、都市への人口集中を防ぐ狙いがあ。たとされています。Q:みんな生まれた土地で暮らし続けるのかな。
A:経済発展によって、事態は変わりました。よりよい仕事を求めて農村から都市へ出稼ぎ労働者が流入。「農民工」と呼ばれ、安価な労働力として建築現場や工場で働き、中国の急成長を支えました。中国国家統計局によると。二〇一四(平成二六)年時点で二億七〇〇〇万人いると言われています。Q:戸籍地を離れても大丈夫なの。
A:都市の戸籍を持つ人と異なり、たくさんの制約を受けています。農民工の子は出稼ぎ先での就学が困難なため、親と離れ離れになり、戸籍地に残ることになります。
こうした「留守児童」は全国に六〇〇〇万人以上いるとされています。昨年には貴州省の留守児童四人が自殺する事件が起き、社会問題化しています。Q:何とかならないの?
A:中国政府も課題を認識しており、議論を重ねています。二〇一四(平成二六)年には都市と農村の戸籍の統合を進め、一億人に都市戸籍を与える改革案を公表しました。ただし、中小都市への戸籍移転は門戸を広げる一方、北京や上海のような大都市への移住は厳しい規制が残ります。出身地による差別的待遇が撤廃されるわけではありません。
さらに翌二一日の「なるほどドリ」では「中国・男児の出生なぜ多い?」の見出しを掲げ、次のように解説している。
Q:中国では男の子の方が多く生まれるそうだね。
A:出生人口の性別割合は自然な状態では、女を100とすると、男は105前後とされます。ところが、中国では一人っ子政策導入後、男の出生数が異状に多い常態が続いています。近年は男が120前後で推移し、世界でも最も高い水準です。二〇一〇(平成二二)年の中国版国勢調査によると、安徽省は130を超えていました。男児が三割も多く生まれたことになります。Q:なぜそんなことが起きるの?
A:まず男児を尊ぶ価値観が根強いこと。さらに、農村部では男性を労働力や老後の生活保障の担い手として、より切実に必要としています。国が「一人っ子しか認めない」と制限した結果、多くの人が女児を妊娠しても中絶して男児を求めました。同じ時期に超音波検査などの出産前の性別鑑定技術が普及したことも拍車をかけました。Q:バランスが崩れると何が問題なの?
A:男が余るわけですから、結婚難につながります。少子化、独身高齢男性の社会保障などの問題が心配さされます。都会よりも、経済条件が劣る農村部にしわ寄せが来るでしょう。昨年十月には中国の経済学者がブログに「収入の低い男性たちは一妻多夫制度を」と提言し物議を醸しました。Q:一人っ子政策をやめれば解決するの?
A:そうとも言えません。例えば一人っ子に制限していないインドの出生性比も男が110を超える水準です。共通点は根強い男尊女卑の意識です。中国政府は二〇〇〇(平成十二)年代から「女児の命を守り、大切にしよう」と呼びかけています。
これを見て考えさせられたことを整理してみる。
① 人口の増減をコントロールすることは、極めて難しいことであり、思わぬ結果を招くことを改めて教えられた。わが国では逆に政府が人口増加を奨励する工夫をしているが、これまた効果を期待し難いことである。
② 日本でも私たちの世代は、老齢年金や医療保険など、子供たちに迷惑をかけずに済む制度に守られているが、少子高齢化が加速度的に進行することが予想されているので、今のままの制度を維持することは難しく、早急に対策をしなければならない。
③ 中国は日本の十倍以上の人口を抱えているので、中央の政策が末端の行政機関を動かすには時間がかかることは避けられないことと思われる。
④ しかし、それより問題は、伝統的な贈収賄体質ではないかと思われる。習近平の大々的な汚職摘発が伝えられているが、早くもその副作用として、公務員志願者の激減が伝えられている。古来「上に政策あれば下に対策あり」と言われるお国柄のことだから、どうなることか分からない。
ramtha / 2016年5月23日