今朝の毎日新聞の「風知草」は、山田孝男氏が「TPPの漂流]と題して、次のようなエッセイを載せている。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の最重要の論点は、それが国民にとって本当にいいことかという問いに尽きる。
政府は「GDP(国内総生産)が増え、みんなハッピー」と言うが、「潤うのは国際企業とエリート層だけ」という不信が国の内外に根強くある。地震・火山列島ますます鳴動の時、TPPは誰を助けるしくみなのか、問い直す意味はあろう。
日本政府の「TPPでみんなハッピー」説と鋭く対立し、問題を浮き彫りにしてみせるのが、ノーベル経済学賞受賞、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授(七三)である。
この人、先月、安倍晋三首相(六一)に消費税率の据え置きを進言して注目を浴びたが、同じ日、東京・渋谷の国連大学で講演し、こう断言していた。
「TPPは悪い貿易協定である。国際企業の最悪な利己性が強調される。欧州はそれを理解して非加入を選んだ。日本が入れば、劣った、二流の協定に縛られることになる。」
TPPはなぜ悪いか。スティグリッツの新聞・雑誌寄稿を集めた「世界に分断と対立を撤き散らす経済の罠」(原題:The Great Divide)から拾うと、「このような協定が国際貿易を統制すれば、国際企業は(理論上は)1970年の自動車排ガス規制、72年の水質汚濁規制、直近の世界金融危機(リーマン・ショック)以前の活動に戻ることさえできる」ことになり、暴走する可能性があるからだ。
その結果、「あらゆる人々の犠牲のもとに、米国のごく一部の最富裕層と世界各国のエリート層が恩恵を得る、という状況が築きあげられてしまう危険を秘める」からである。
スティングリッツは分配の平等、公平を重視する点において、左派に分類される経済学者である。ノーベル賞の経済学者が全員、TPPを批判しているわけではない。
だが、米大統領選の予備選を見よ。格差是正が争点になり、協和・民主両党の指名を争っている主要候補の全てがTPPに反対している。米議会でもTPP承認は難しいというのが今日の現実である。
TPPは環太平洋二一ヵ国の貿易協定である。
農産物、自動車、医薬品などの関税から金融、サービス、投資の自由化、知的財産、電子商取引のルールづくりまで内容が広く、評価は一様ではない。
日米豪を含み、中露韓は除くので安全保障同盟の性格も帯びている。二〇一〇年、民主党政権が参加検討を表明。成長優先、同盟重視の安倍政権は迷わず参加を決め、今年二月、署名。今月五日からTPPの承認案と農業対策などの関連法案の審議が始まったというのが、これまでの流れである。
熊本で大地震が起きる直前、国会は「のり弁当みたいな黒塗り文書」や、時機が悪すぎる西川公也衆議院TPP特別委員長(七三)=元農相=の「交渉内幕本」で紛糾した。
外交交渉記録の開示が制限されること自体はやむを得ない。秘密情報で書いた内幕本のゲラが流出する間抜けさはおかしいが、それを囃(はや)し立てるだけでは建設的でない。TPPは誰を幸福にするのか。参加へ道筋をつけた民進党(旧民主党)は、今はどう考えるのか。格差是正を問う論戦に集中してもらいたい。
これを読んで、感じたことを整理してみる。
① 日頃不勉強な私は、TPPといえば、参加国間の輸出入は全て関税が撤廃され、輸出産業は売り上げ拡大が期待されるが、日本では米など国内価格が割高な農業は低価格の外国産の輸入拡大で危機にさらされることになると言う程度の知識しか持たない。
② だから、今でさえ先進国中最低の食糧自給率にある日本にとって、TPPは安全保障上も検討を要する課題であるという説を耳にしたことはあった。しかし、まだまだ先のことのように考えていた。
③ しかし、これを見ると、そんな悠長に構えていられるものではなく、すでに国会審議が始まっているという。それは良いとしても、ここに掲げられている解説では全ての貧困層の人々の犠牲と一握りの富裕層を豊かにする懼れがあるという。本当にそうなら由々しきことではないか。
④ 新聞も我々の不安を掻き立てるような論説をなぜこの期に及んで掲げるのだろう。それよりTPPに含まれる重要項目とその利害得失を読者に分かりやすく解説すべきものと思われるが、それは見当たらない。どうしてだろう。
ramtha / 2016年6月30日