今朝の毎日新聞で「結婚コスパ悪い」と言う不可解な見出しに出会った。「一極社会~東京で生きる」と題するシリーズ物のルポルタージュである。
カタカナ語の氾濫には度々悩まされているが、コスパとはまたまた新顔の登場である。何を意味するのか分からないものの、取り敢えず本文を読んでみる。
少子化が進む東京は、地方に比べて物価が高く、恋愛や結婚にも経済事情が影を落としている。特に、不況しか知らないバブル後の世代は、お金への不安を感じており、結婚を含め金銭見合いで行動を抑えることがある。恋愛や結婚も金次第ということなのか。
「結婚にはメリットがないと思うんです。だって、コスパが悪いですよね」
都内在住の公務員、佐々木健一さん(二六歳)=仮名=は、コストパフォーマンス(費用対効果)の略語を使って、結婚しない理由を饒舌に解説する。
「綺麗で可愛い人と居られるのはプラス。ただ、綺麗というのは年々下がるし、特定の相手に一生縛られ続けるのはマイナス、二人分の生活費もかかる」大学進学で上京。1988年生まれで、バブル景気の記憶は無い。「僕らは日本のいろんなものが崩れていくのを見てきた世代。不景気が当たり前だった」と話し、結婚でさえ損得勘定で考えると明言する。
手取りは月四十万円弱。三十二㎡の手狭なワンルームマンションの家賃は約八万円で、最低限の自炊によって食費は三万円程度に抑える。光熱費も一万円ほど。友人とのカラオケ代は惜しまないが、服装は大手衣料チェーンで揃え、貯金は二百万円を超えた。
学生時代に一年ほど女性と交際した経験があり、異性に関心がないわけではない。
「だけど子供ができれば養育費や教育費もかかるし、やっぱり結婚したいとは思わない」以前では考えられない論理だが、こういう考え方の若者が増えているのだろうか。
広告代理店「アサツーデイ・ケイ(ADK)の若者プロジェクトリーダーで、若者の消費行動に詳しい藤本耕平さん(三五)は、こう分析する。「今の若者は個性重視の教育の影響もあって、理想は一つじゃないと教えられて育ってきた。不況もあり、将来の希望を抱いていないというのも特徴の一つだ。結婚が一番正しいという価値観は相対的に低くなり、損得で恋愛や結婚を考えるようになっている。特に東京は地方と違って、多様なライフスタイルができるため、この傾向が強い」
国立社会保障人間問題研究所の調査(2010年)によると、全国の生涯未婚率は90年代から急速に下がり始め、男性は20.14% 、女性は10.61%に達した。中でも東京の比率は高く男性は四人一人の25.25%女性は六人に一人の17.37%が結婚していない。いずれも全国平均を大きく上回っている。
最近多くの家庭で「子供がいつまでも結婚しなくて」と嘆く親の質の声を聞いてはいたが、この記事を見て改めてその現実を知らされた。
確かに愛情だけでは生活していけないが、我々の若かりし頃の経済的条件は、今よりはるかに厳しいものであった。それでも「一人口は食えなくても、二人口は食える」と言う仲人口に、背中を押されて結婚した人も多かったことである。
そうやって結婚生活を始めたわれわれ世代は、当初はずいぶん苦しい生活を余儀なくされたが、1950年(昭和二五年)に朝鮮戦争が勃発し、戦争景気の恩恵を受けたことによる高度成長により、庶民の生活もずいぶん豊かになることができた。
「政治の世界は一寸先は闇」と言われるが、政治の世界に限らず、人生すべて一寸先は闇である。日本は戦後七〇年、平和に過ごすことができたが、これも国際環境の推移に恵まれたことが大きな要因であった。
戦後生まれの人々が、その平和にどっぷり漬かることができたので、この状態が当たり前と感じているのだろうが、いつの世も、どう変わって行くのか全くわからない。
自分の人生設計を描く事は大切な事ではあるが、その設計通りに行かず、しばしば修正を余儀なくされるのが現実である。コスパにとらわれて未知の世界へ踏み出す勇気がなくては幸せを手にすることはできない。日本の若者がコスパに拘束されているようでは、少子高齢化が急速に進み日本は衰退して行くばかりだ。
(平成二十七年五月七日)
ramtha / 2015年8月4日