通信交通手段の急速な発達に伴い、国境を跨いでの人々の交流が頻繁になり、文化や芸術などあらゆる分野でグローバル化が進んでいると伝えられているが、片方では中東をはじめ世界各地でナショナリズムの台頭が目に付くようになってきた。昨日の毎日新聞では、「米で極右暴力増加」と題する次のような記事が見られた。
米国で史上初の黒人大統領としてオバマ大統領が就任した2009年から昨年までの6年間で白人至上主義や反政府主義など極右の過激主義者による襲撃事件や計画が計42件に上ることが、人権団体の統計で分かった。ブッシュ前政権の8年間では31件で、急激に増加した。
オバマ大統領の熱心な銃規制の取り組みなどへの反発も背景にあるとみられている。南部サウスカロライナ州の黒人教会銃乱射事件で、殺人容疑で訴追されたディラン・ローフ容疑者(21)は白人至上主義的な思想を持っていたことが分かっている。今回の事件を契機に米国内では、極右の過激主義の脅威に真剣に向き合うべきだとの声が出ている。
統計をまとめたのは、英国のユダヤ人団体「名誉毀損防止同盟」(ADL)。調査責任者のマーク・ピッカページ氏によると反政府主義者は、オバマ大統領による銃規制の取り組みを、市民からの銃没収と言う「政府による陰謀」と捉える傾向があるという。
オバマ大統領が不法移民の合法化に道を開く移民制度改革を大統領権限で進めようとしていることに、過激主義者らが危機感と怒りを増幅させている可能性も指摘される。
オバマ政権下での主な襲撃事件は、
・中西部ウィスコンシン州のシーク教寺院で白人至上主義者の男がインド系住民ら6人を射殺(12年)
・中西部カンザス州のユダヤ系コミュニティーなどで白人至上主義の男が3人を射殺(14年)
・西部ネバダ州で反政府主義の夫婦が警官2人を射殺(同)などがある。一方、シンクタンク「ニュー・アメリカ」の最新の調査では、01年米同時多発テロ後、米国内でのイスラム過激主義者のテロ行為による死者は26人だが、極右の過激主義者によるテロの死者は、倍近い48人に達している。
テロ専門のマサチューセッツ大ローウェル校のジョン・ホーガン教授は米紙ニューヨーク・タイムズに「(イスラム過激派の)聖戦主義者によるテロの脅威は誇張されてきた一方で、極右の暴力の脅威は過小評価されてきた。」と語った。
オバマ大統領が出現した時、アメリカは人種差別をここまで克服したのかと感心したことであったが、これを読んでみると、実情はそう簡単なものでは無いようで、白人至上主義者の活動が頻発していることを知らされると共に、ナショナリズムの台頭は、白人の地位低下によるものでは無いかと思われた。
考えてみると十五世紀に始まった大航海時代以来、欧州白人の活発な海外進出が、世界各地の現地人を威圧し、植民地を広げてきた。その上、非白人は白人の抑圧と酷使の下で、ひたすら堪え忍ぶことを余儀なくされてきた。
ところが明治三八年の日露戦争で日本が大国ロシアに勝利した。これが、非白人の独立願望に火を点(とも)した。
さらに第二次世界大戦で、日本は敗れはしたものの、その緒戦において、東南アジアを植民地とする欧米各国の軍隊を打ち破り、その支配を排除した。それを目の当たりにした現地人が、大きな刺激を受けて立ち上がり、第二次世界大戦後次々と独立を果たした。これを時系列に従って表記すれば次の通りとなる。
・1945年 ベトナム 旧宗主国フランス
・1945年 ラオス 旧宗主国フランス
・1946年 フィリピン 旧宗主国アメリカ
・1947年 インド 旧宗主国イギリス
・1948年 ミャンマー 旧宗主国イギリス
・1949年 インドネシア 旧宗主国オランダ
・1953年 カンボジア 旧宗主国フランス
東南アジア各国の独立は、各国の現地人の劣等感を払拭し絶大な自信を植え付けることとなり、白人を中心とする先進国と、非白人の発展途上国との格差は急速に縮まり続けている。
こうした現象は世界を我が物顔に振る舞ってきた白人にとって愉快なことであるはずがない。
とりわけ戦後日本の奇跡的復興発展と、鄧小平の改革開放以来、目覚ましい躍進を続ける中国は、世界の覇者アメリカにとっても無視できない事態となりつつある。
まだ表面化してはいないが、多くの白人が内心焦りを抱いているに違いない。
アメリカにおける白人至上主義者による銃乱射事件も、人種格差の縮小とナショナリズムの台頭が、その根底にあるものと思われるがどうだろう。
(平成二十七年七月一日)
ramtha / 2015年12月10日