昨日に続いて「中国大減速の末路」を読むことにする。
アジア開発銀行(ADB)の融資の条件は、各プロジェクトごとに異なるものの、基準となるのは金利5%前後で固定、返済は25年以上というものだ。これは借り手にとっては、極めて良い条件である。25年あれば、インフラの償却はだいたい終わる。したがって途上国の多くがADBからの融資を受けたがっている。
資金調達コストの高いAIIBは、当然、ADBより融資条件は厳しくならざるを得ない。言ってみれば、優良案件ほどADBから融資を受け、ADBの審査から漏れた案件がAIIBに回る可能性が高い。その点では、AIIBはADBに比べハイリスク、ハイリターン案件を手掛けるほかないということになる。
そもそも、なぜ、中国が自らAIIBのような国際金融機関を設立するに至ったのか。日本の反対を押し切ってまでもAIIBを設立するのは、中国がインフラ投資を通じて、アジア諸国を取り込むためだと言われている。
さらには北京から北西部を通りカザフスタン、ウズベキスタン、イラン、ギリシア、トルコ経由でロシアやヨーロッパまでつながるシルクロード経済帯と、南シナ海からインド洋を抜けてケニア、アフリカ大陸に至る海洋ルートの海のシルクロードをめぐる地域共同体構想(一帯一路構想)を実現させ、国際的な影響力を高めるためだと言われてきた。
中国はすでにAIIBとは別に、出資額400億ドルのシルクロード基金を創設し、対象地域のインフラ整備の支援を表明している。これにAIIBを加え、豊富な資金力を武器に周辺地域の影響力を強めようとしている、というのが一般的な見方である。
しかし、これもまた大きな誤りである。これまでの中国経済は、大規模な都市開発や高速道路、高速鉄道建設と言った膨大なインフラ整備による投資主導での経済成長を果たしてきた。いわば、国家主導の「国土開発バブル」で高度成長を実現させてきた。
しかし、今や、この「国土開発バブル」による成長モデルが崩壊してしまったのだ。過剰なインフラ投資が行われた結果、中国の多くの都市で「鬼城」と呼ばれる住民なき高層マンションが生まれ、総延長が2万5,000キロに達しようとしている高速鉄道は、常にガラガラで「空気を運んでいる」と揶揄されるほどの惨状にある。
従って、中国は、早急にこれまでの投資主導による経済路線を改めなければならなくなった。 「量から質」への転換とはそのことである。ただ、この「量から質の転換」は、そう簡単に実現できるものではない。
そのさじ加減を誤れば、これまでの「国土開発バブル」を請け負ってきた中国国内の企業、具体的には鉄鋼会社や建設会社、セメント会社や鉄道車両会社、さらには不動産デベロッパーと言った膨大な数の企業が一気に破綻の危機に陥ることになる。そうなれば、危機は経済分野だけにとどまらず、社会秩序の混乱を経て最終的には共産党独裁という政治体制までもが危機に直面することになりかねない。
だからこそ、中国は多少強引にでもAIIBの創設を急いだのである。国内需要が飽和に達した今、労働者も含めた自国企業の設備を海外展開させることができなければ、経済破綻、国家破綻の危機に直面してしまう。そうならないために、AIIBによる融資で資金を手当てし海外の開発やインフラ整備事業を、自国の過剰供給をさばくはけ口にしようとする思惑が見え見えなのだ。
従ってプロジェクトの主要部分は中国企業が行うことになるに違いない。また、一連のプロジェクトにおいて融資先の国の発展に資するような現地調達などもほとんど行われないだろう。まさに追いつめられた中国が「中国による中国のための銀行」を作ったのがAIIBである。
以上が、この本の冒頭の序章『中国主導のAIIBは「窮余の一策」に過ぎない』の概要であるが、かねてAIIBについて疑問となっていたことについて、明快な回答を得た気分である。
今日の毎日新聞では「~中国株下落止まらず~市場パニック状態」という大見出しで、上海、深圳市場での中国株式の大暴落を報じている。著者の慧眼を目の当たりにして驚いたことである。
しかしながらAIIBが破綻しても、日本が加盟していないのだから、対岸の火事として高見の見物で良いかもしれないが、中国共産党の独裁体制が崩壊したら、中国社会の大混乱は避けられない。その時は多くの難民が日本に押し寄せてくるに違いない。
今でさえ不法入国者の取り締まりに手を焼いていると聞いている。何しろ十三億とか十四億とか言われる中国人である。今日目にする爆買いの光景から想像しても、その凄まじさは想像するだけで、身の毛もよだつ思いがする。
(平成二十七年七月九日)
ramtha / 2015年12月26日