長谷川慶太郎氏はその著書「中国大減速の末路」の中で、次のように解説し、中国において「無血革命」はありえないと述べている。
中国において、経済危機から中央の共産党政権が崩壊するようなことになった時、人民解放軍の暴走を止められない可能性が高い。軍の動向が、中国崩壊とソ連の崩壊の際の決定的な違いなのだ。
旧ソ連の場合、軍は共産党の命令を忠実に受け入れ、一滴の血も流さずに体制の移行が完了した。中国においてもソ連と同じような「無血革命」が期待できるかと言えば、それは100パーセント不可能であろう。
その理由は、中国では、未だソ連型の「大粛清」が行われていないからである。その結果として、最も重要なポイントであるが、人民解放軍幹部に対して中国共産党首脳部が「文民統制」を強制し、それに服従することを求めても、必ずしも従うとは限らない。
党の統制に反対する幹部がいたとしてもソ連型の「大粛清」と同様に、大規模に処罰されるという恐怖を、党の幹部も人民解放軍も未だ経験していない。
スターリンの個人独裁によって、「大粛清」の恐ろしさを学ばされたソ連軍の首脳は、ソ連共産党中央委員会の指示に服従する以外、自らの存在が許されないことを十分学び取った。少しでもその指示に反すれば、その代償は、決して小さなものでは無いことを知った。
そしてその記憶は、スターリンの死後、数十年が経過した90年代初頭においても、ソ連軍の幹部にはしっかりと残っていたのである。それに対して中国の場合には、毛沢東の「革命は銃口から生まれる」という言葉の通り、人民解放軍は中国革命を推進し、それを達成するに際して決定的な役割を果たす組織として優遇され、尊重されてきた。
したがって、人民解放軍の幹部たちは、ソ連軍幹部が感じるような恐怖を、党の指導者に感じる事はないだろう。
現在、習近平による粛清の動きが強化されているものの、戦時体制と言う国際環境がない中で大粛清を進めていけば、必ずや国民の不満、反発が生まれ、それを抑えることができなくなる。したがって、これから先も中国においては、スターリン時代のような徹底した独裁体制が生まれる事はなく、結果として、軍が党に完全に従う体制を作る事は難しいと思われる。
という事は、万が一にも、社会が動乱し人民解放軍が共産党の中央委員会に対して反旗を翻すような事態が起こった場合には、中華人民共和国は一瞬のうちに崩壊、消滅することになる。それは世界史に残るような凄まじい大変動伴う事態になる事は容易に想像できる。
私は前に習近平国家主席が就任早々、汚職撲滅に乗り出し、軍首脳部の実力者令計画などを槍玉にあげたと言うニュースを耳にしていたので、てっきり軍もその支配下にしたものと思っていたが、これを見るとそんな簡単なものではないらしい。
中国が発表する数字は信頼できないと言われているが、総数二百三十万人を超える中国軍は、地域ごとの各軍管区に分かれ、それぞれ独立して行動をしており、人事の交流もないとか。そういうことでは、党指導部が混乱すれば、各軍管区はそれぞれ勢力拡大に走り、内戦状態に陥ることも予想される。
その時、世界中にどのような影響が及ぶか分からないが、東シナ海を挟んで隣に位置する日本には、難民が怒涛のごとく押し寄せて来るに違いない。日本にとってこんな迷惑な事は無い。
しかし難民を手厚く保護し受け入れるのが、先進国の常識とされている今日、水際でこれを追い返せば、世界各国から非難される事は明らかである。
老骨の私にはいかにすべきか分からないが、政府は前もって対策を講じていてほしいものである。
(平成二十七年八月二十八日)
ramtha / 2016年1月28日