中国の自動車は日本車に比べ、燃費効率が悪く、排気ガスも多く、北京の大気汚染はマスクが手放せないと聞いている。そんな中で世界陸上選手権大会が行われた。出場選手の健康が気にかかったことだが、何とか無事に終了したようだ。
先頃の毎日新聞に、中国総局・石原聖氏の「イベント限定の青空」と題する次のようなコラムが載っていた。最近、経済発展の鈍化が取り沙汰される中国の一端を伝える記事として、目を惹かれたので転記する。
「危険物が近くにあると知っていたら部屋を買うわけがない」天津の大爆発現場まで約一キロのマンション。壊れた自室でこうなだれる女性を見て、ある事故を思い出した。
それは七月下旬、湖北省のショッピングセンターで起きた。三歳の子供を抱いた母親(三十)がエスカレーターを降りると、突然鉄の床が抜け落ちた。母親は近くにいた従業員にすがるように子供を預けた。だが、自らはエスカレーターを巻き上げる機械に飲み込まれて亡くなった。
監視カメラがとらえた痛ましい一部始終に、エスカレーター等の事故はメンテナンスの不備が六割と言う調査結果を付けて中国では報じられた。
「コスト削減のために点検を怠り、トラブルがあってから検査を始めたりする」安全対策をないがしろにする体質に警鐘鳴らしていたが、一ヵ月もたたずに天津で爆発が起き、山東省などでも化学工場の爆発火災が立て続けに発生している。通底するものは同じ。エスカレーターの悲劇がその後の爆発を暗示していたような気がしてならない。こう北京の知人に話すと、彼は陸上の世界選手権と軍事パレードを前に、大気汚染が嘘のような青空を指さし「わが政府が真剣なのはイベント限定のブルー。自分が事故に遭わぬように祈るだけだ」と吐き捨てるように言った。
日本も高度成長期には、北九州や川崎、四日市の工業地帯では、喘息患者が多発するような大気汚染があった。中国の現場を見て、平成生まれの人々は呆れ果てるに違いないが、油断すると、日本も昔に逆戻りすることを肝に銘じ、よろず手抜きしないよう心がけねばなるまい。
(平成二十七年九月十日)
ramtha / 2016年1月30日