昨日は国会の集団的自衛権関連法案採決の乱闘騒ぎを取り上げたが、この法案の必要性がいま一つ分かりづらい。安倍総理の説明が二転三転したこともあって、長時間審議されたにもかかわらず、国民が十分理解し得ていない事は、安倍総理も認めている。なぜだろう。
そんなことを考えている時、たまたま長谷川慶太郎氏の著書「二〇一五年~世界の真実」に次のような解説があるのを見つけた。まずはそれを紹介する。
アメリカと中国のG2体制、あるいはアメリカが東太平洋、中国が西太平洋を支配するといった構想が語られることがある。しかし、アメリカは中国との二極体制を取るつもりもなければ、西太平洋を中国に譲るつもりもない。その証拠にオバマ大統領はいずれも言及したことがない。
かといって、中国を追い詰めることもしない。防空識別圏の設定を強く抗議し、すぐに戦略爆撃機B52を飛ばして見せたのは「現状の変更を認めない」と言う意思表示にすぎない。つまり、アメリカの対中戦略は「現状維持」である。とにかく中国とは熱い戦争をしない。ことを起こさずにいれば必ずつぶれると言う確信がある。
これは「冷たい戦争」に勝利した経験則である。冷たい戦争で勝敗を分けた最大の要因は自由があるかないかだ。西側には自由があった。東側には自由がない。その結果、技術の研究開発で圧倒的に東側が負けた。
自由がなければ技術は遅れる。例えば、戦車の性能が違う。湾岸戦争でイラク軍の持っていた最新鋭の戦車が他国籍軍の持っていたアメリカ戦車に対抗できなかった。これを知ったソ連軍は愕然とした。戦争すれば必ず負けることが分かったからだ。この認識が冷たい戦争を終結へと向かわせた。
したがって、冷たい戦争を熱い戦争に転化しないことが何よりも重要になる。朝鮮動乱がそうだし、ベトナム戦争がそうだが、熱い戦争にすると失敗した。逆に、熱い戦争に転化しなければ自動的に東側は潰れる。それをアメリカは確信している。だから、アメリカは中国にわざわざ喧嘩をふっかけたりしないし、現実にその必要もない。
本当のことを言えば、中国からはアメリカに喧嘩など売れるはずがない。アメリカ軍が出てくるところに中国軍は出てこられない。出たら負ける。尖閣諸島が日米安保の適用対象になるかどうかに中国軍が関心を持つのは、アメリカが出てくるところでは戦争はできないからである。
アメリカは民主党と共和党で、中国に対する見方に若干の違いがある。しかし「冷たい戦争を熱い戦争に転化しない」という戦略は変わらない。したがって、中間選挙でどういう結果が出ても「現状維持」という基本戦略が変更される事はないだろう。
ちなみに、経済的にアメリカと中国は密接な交流がある。これはソ連との関係と異なるが、経済的に付き合っても深入りしてはいけないとアメリカは考えている。アメリカの企業が中国に進出する時、国務省がアドバイスする。そのポイントは、アメリカ人を中国に出すなと言うことだ。「中国に進出するのは差し支えない。その際に大事な事はアメリカ人の駐在員をできるだけ置かないことだ。その代わり、アメリカに留学した経験を持つ中国人を雇う。彼らは英語ができる。そしてあなたの会社の方針をきちんと理解し、忠実に執行するだけの実行力を持っている」。現実に今、中国在住のアメリカ人は一万人程度に減った。日本人の十四万人前後と比べれば、その少ないことに驚かされるではないか。
なお、安倍首相が集団的自衛権の解釈を変更しようとしているが、何を想定しているかといえば、中国の在留邦人救出である。例えば、上海には約六万人の邦人がいる。これを救出するためにはアメリカの軍艦が上海に行き、収容するしかない。アメリカの軍艦が上海から日本人の避難民を乗せて帰るとき、海上自衛隊が何もしないで済むか。海上自衛隊の艦船がアメリカの軍艦と共に揚子江の河口まで行き、護衛して佐世保に帰ると言う行動が必要だ。それを言いたい。しかし言えない。今の段階ではまだ中国が潰れていないからだ。
日本の集団的自衛権も中国の崩壊を念頭に置いたものである。「アメリカも日本も俺たちが潰れると思っている」と分かっているから、中国は不愉快なのだ。しかし困ったことに中国が潰れる方向へ事態は進んでいる。
これを見て感じたこと、考えさせられたことを整理してみる。
① 国会で安倍総理の説明がコロコロ変わるのは、真実を言えないからであることが、よく分かった。しかし内政問題は別として、外交安全保障についての基本方針については、与野党で意見を異にするようでは困る。
② 今回の問題では、安倍総理の国会では明言できないような心を、最大野党の民主党首脳も理解していないようである。あるいは知りながら国民の手前、八百長してみせたのだろうか、それにしてもあそこまでするのはやり過ぎではないか。
③ 最近の中国の軍備拡大は目に余るものがあり、日本は専守防衛の立場でも何らかの対応を必要とする事は、良識ある国民には理解できることで、まして国政に携わる議員は先刻承知しているはずである。また著明評論家の長谷川慶太郎氏が昨年七月出版のこの本で指摘していることで、それを知らなかったと言うのは、国会議員として勉強不足と言わざるを得ない。
④ ところで、外交・安全保障保障関連の問題では、国益上、公開の場では議論しがたい事項も少なからずあると思われる。こうした問題は、限られた与野党の首脳部だけの秘密会議で審議されるべきものと思われるがどうだろう。また米英など諸外国ではどうしているのだろう。よろず世界の情報収集を専門とするマスコミに、当該国名は伏せることにしても、広く教えてもらいたいものであるが如何なものだろう。
(平成二十七年九月十九日)
ramtha / 2016年2月3日