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「外交官のあり方」

今回のインドネシア高速鉄道を話題に、毎日新聞のコラム「金言」に客員編集委員・西川恵氏が「透明性ある入札」と題して次のように書いている。

インドネシアの高速鉄道計画で、同国政府が一転中国案を採用する方針を日本に伝えた。
東南アジアの新幹線導入では、あるエピソードを思い出す。
1980年代半ば、マレーシアのマハティール首相(当時)は日本の新幹線導入を真剣に考え、同国駐在の木内昭胤日本大使に協力を求めた。これに対し同大使は「お国は新幹線を導入する状況にはまだありません」と次のような理由を上げた。

マレーシアの人口は約1500万人(当時)で、採算が成り立つだけの需要が見込まれないこと。二つ目に、国造りの上からは貨物輸送の増加や道路網等の整備に注力するのが先である、と。同首相は不満そうだったが、この話はこのまま立ち消えた。

また聞きの話だったので、木内氏に電話で聞いた。
「その通りです。『とんでもない』という言葉は使いませんでしたが、マレーシアの実情を考えればやることが他にある。先方の大蔵大臣も私の説に『大使の言う通りだ』と納得してくれました。」
マレーシアに進出した日本企業は久しぶりの重厚長大のプロジェクトと小躍りしたと言う。「途上国は背伸びや自己満足、国威発揚で、華やかなプロジェクトに飛びつき、結果として高価なものについてしまう。日本大使としてはまずマレーシアの実情を考えて判断しました」80年代の東南アジアの経済状況を考えれば、木内氏の判断は正しかっただろう。

あれから30年余り。インドネシアの高速鉄道計画は二つのことを浮き彫りにする。
この30年余りの東南アジアの経済社会の変貌と、人口減少や国内市場の飽和によって、より積極的に海外に市場を求めざるをえなくなった日本の事情だ。

ただ今後不透明な入札プロセスはインドネシアにとってもプラスにならないのではないか。中国の計画案は2018年までの完成を約束する。異例のスピードだ。バンドンは標高750メートルの高原で、山越えもある。土地取得、資金の手当、不測の難工事などを考えると、工期を守れるか疑問は多い。

中国は受注ありきで動いたことは推察できるが、ここは中国の問題ではない。透明性ある入札を確保することが品質を確かなものにすることで、インドネシア自身のためなのだ。大型のインフラ導入が続く東南アジア諸国にとって「透明性ある入札」の必要性はインドネシアだけの問題では無い。

木内大使の話は初めて耳にしたことであるが、相手の国のためを第一に考える日本人の模範ではないかと感じた。こうした人柄が、外国の信頼を受ける外交官として最も大事な要素ではなかろうか。若い世代に語り継ぐべき話題としてここに書きとめた。

(平成二十七年十月二日)

ramtha / 2016年2月8日