今日の毎日新聞の「余録」では「睡眠の効能」について教えられることがあった。興味をそそられたので、書き留めることとする。
「夢見ることを学ぼう。そうすれば真理を見いだせるだろう」。こう呼びかけたのは19世紀ドイツの科学者ド・ケクレである。少年よ大志を抱け、と言うような意味ではない。文字通り寝ているときの夢で真理を発見しようと言う呼びかけである。
ベンゼンの分子構造を解明したケクレだが、発見はこんな夢のおかげだった。「原子が飛び跳ねるのが見えた。原子が長い列をなし、蛇のようにのたくっている。やがて1匹が自分の尾をくわえ、目の前で回転し始めた。」
六個の炭素原子が六角形の輪をなしていることを思いついたのである。(ヴァーマ著「ゆかいな理科年表」ちくま学芸文庫)。おそるべき夢の力だ。夢を見やすいのはレム睡眠と言う浅い眠りの時と言う。深い眠りのノンレム睡眠では夢を見ても思い出せないらしい。
眠っている間はレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されている。筑波大のチームがマウスの実験で突き止めたのはレム睡眠の役割で、それがないとノンレム睡眠の時に記憶の定着を促す脳波が弱まってしまうと言うのだ。レム睡眠は学習や記憶力に影響しているらしい。
つまり眠っている間も脳は二種類の睡眠を切り替えながら、記憶を定着させたり、整理したり、せっせとお仕事をしているようだ。寝ても起きても働き者の脳だが、そういえば英国の哲学者B・ラッセルが意識下の脳に仕事をさせる術を述べていたのも思い出した。
悩み事があったら、何日か熟考の後に「この仕事を地下で続けよ」と脳に命じるのだと言う。しばらくして気づくと問題が解決していると言う。大哲学者の脳でないと無理かどうかは知らない。
老境に入ると記憶力が衰える事は、毎日痛感しているが、それでも小学校の先生に叱られたことや、友達と諍いをしたことなど、八十年以上も昔の事は今でも覚えている。ところが昨日の夕食に何を食べたかなど思い出せない。
これを見ると、若い頃の脳は昼夜を分かたず活動をしているが、年とともに脳も衰え、休み休み僅かな仕事しかしていないのだろう。
また私のような怠け者の脳は退化が早いが、ノーベル賞を受賞された先生方のように、いつ迄も脳を使って勉強されている学者の頭脳は、老化しないに違いない。
長く使わない機械は錆びて早く廃品になるように、人間の脳も、使わないと早く機能が衰えるということだろう。老人性認知症にはなりたくないから、今からでは手遅れだろうが、せめて錆を落として動くかどうか試してみるとしよう。
(平成二十七年十月二十四日)
ramtha / 2016年2月15日