今日の毎日新聞を広げると「親の愛に見る中国の闇」という見出しが目についた。興味を惹かれたので見ると、次のような書き出しから始まっている。
毎年多くの子どもが行方不明になっている中国。実際に起こった誘拐事件を基に生みの親、育ての親の愛情の深さを問いかける中国映画「最愛の子」が東京で上映されている。昨年末来日した監督のピーター・チャンさんに家族のあり方、中国の抱えている問題について話を聞いた。
これを見ると、二ュ-スなどでは伝えられない今の中国の実情を、中国人監督が描いた話題作が東京で上映されているようである。中国共産党のカーテンに覆われた中国社会の実体を知ることは難しい。しかし、この映画では、普通の中国人の日常生活と、その中で繰り広げられる喜怒哀楽や折々の表情なども見ることが出来るに違いない。ぜひ見たいものだが、外出もままならない私はどうしようもない。せめてこの記事を繰り返し見て心を慰めることにしよう。
映画は、二〇〇八年三月に誘拐された男の子が、三年後に両親の元に帰ってきたという実話がベースになっている。
中国・深釧の路地で、友達と一緒に遊んでいた三歳のポンポンが突然姿を消す。離婚して別々に暮らしていた父母は、仕事をやめ必死の思いで国内中を捜し歩く。三年後、中国東北地方の農村に暮らす息子を見つけ出すが、ポンポンは実の親のことを全く覚えていない。育ての母親と引き離されることを嘆き悲しむ。ボンボンを誘拐した父親はすでに亡くなっており、妹、育ての母親との三人の暮らしは断ち切られる。子どもを取り戻そうと必死になる母親の姿から「親の愛情」の深さが切々と伝わってくる。
ピーター監督は「実の親の愛も、誘拐の妻だった育ての母の愛情にも変わりがないということを訴えたかった」と話す。誘拐事件という切実な問題を扱った映画だけに、国内でも話題になり、人身売買において買う側も重罪とするように刑法が改正、昨年一一月に施行されたという。このほか一人っ子政策、離婚、地方と都市の経済格差、地方からの出稼ぎ、女性の地位の低さなどといった中国が抱えているさまざまな問題が浮き彫りにされていく。
ピーターさんは香港の映画監督で、これまでは都会派のコメディー、ラブストーリー、アクションものを数多く手がけ、社会派の映画は初めての挑戦だったという。この映画を撮ろうと思ったきっかけは四、五年前に見たドキュメンタリー番組だったという。
「子どもを誘拐された親のつらさ、悲しみは痛いほど伝わってきました。子どもが見つかり連れて帰ろうとしますが、泣いていやがります。この時父親の放った一言が僕にとってはとても衝撃的でした。息子を無理矢理連れて帰ることはもう一度子どもを誘拐することになる。子どもの心を傷つけることになるのではないか・・・」
親の深い愛情、そして生みの親、育ての親とも家族を失う悲しみに変わりがないことが、身にしみたという。中国では一人っ子政策の弊害から、こうした誘拐事件が多発している。失踪後二四時間たたないと捜査を開始しない地方の警察、見つからないわが子を諦め、次の子を産もうとする夫婦に第一子の死亡届けがないと認められないという役所などの矛盾も丁寧に描かれている。映画の冒頭、都会の路地裏にさまざまな電線が絡み合うシーンが出てくる。
「経済発展の速さ、都市と農村の貧富の差、離婚など家族の崩壊、出稼ぎなど中国の抱える問題は複雑で多様です。一人っ子政策の廃止だけで問題は解決しないと思います。問題の解決は簡単ではないが、諦めず前向きに暮らしていくしかない」と監督は話す。
親と子の普遍的な愛、現代中国の抱えている問題などを身近に感じることができる作品だ。
東京・銀座「シネスイッチ銀座」のほか、全国で順次公開中。
ramtha / 2016年5月16日