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二月十三日 「再び『放射線被爆リスク』について」

昨日の毎日新聞のコラム「発信箱」では、専門編集委員・青野由利氏が「一ミリシーベルトの根拠」と題して次のような一文を載せている。

どう釈明するのだろう。丸山珠代環境相の「一ミリシーベルト根拠なし」発言報道に想定問答が思い浮かんだ。
信濃毎日新聞によると福島の放射線被爆線量の長期目標について「何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた。(その結果)帰れるはずの所にいまだに帰れない人がいる」と述べたという。

年被爆線量一ミリシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)が原発事故のよう緊急事態の後にめざすべき目安としている数値下限だ。これを参考に民主党時代に除染や帰還の目安を決め、現政府も踏襲している。長期目標の根拠はあるし、人々が帰らない理由はさまざまで複雑だ。

丸川さんは国会答弁や記者会見で「記録がなくそういう言い回しを使ったか記憶にない」と述べた上で、「言葉足らずだった」などと釈明した。予想される範囲の答えだが、残念なのはこうした応酬が結果的に人々を科学から遠ざけ、本質的な問題を置き去りにしてしまうことだ。
「安心してもらおうと思って測定したわけではありません」。こちらは今週、東京で記者会見した県立福島高校の高校生の言葉だ。日本とフランス、ポよフンド、ベラルーシーの高校生に時間変化が測れる積算線量計を二週間身につけてもらい、比較した。結果は「どこもほとんど変わらない」だったが、「福島の線量が高くても公表した。実際に測定して数値を知ってもらうことが大事」と話していた。これが科学的な態度というものだ。

丸川さんは「(民主党時代に) 一ミリシーベルトの意味を十分に説明しきれていなかった」とも述べたが、それなら今、自分ががんばってほしい。野党批判のネタにしている時間がもったいない。

これを見て感じたこと考えたことを整理してみる。

① このコラムは「一ミリシーベルトの根拠」の出所やその妥当性についての検証、説明ではなく、丸山環境大臣の発言を批判するもので、いささかがっかりした。

② 今、被災者を第一に関係者にとって最大の関心事は、原発事故による被災地の放射線濃度がどの程度であるか、人間が居住しても大丈夫なのかということではないか。
コラムの執筆者である青野氏の専門分野は知らないから、この問題の解説者として適任なのかどうかはか分からないが、読者の求めているのはその点である。

③ 東京電力福島原発事故後に、除染の長期目標を「年間被爆線量を一ミリシーベルト以下」と定めたのは、当時の民主党政権の環境大臣細野豪志氏(現政調会長)であるが、その決定数値が、今日の科学的検証に照らして正鵠を得ていないとしても、前例の無い突発時のことで、細野氏の責任を問うわけにはゆかない。その点について丸山大臣の発言が報道されているものであれば、それは舌足らずの謗(そし)りをされてもしかたがない。

④ しかし、今日まで修正すべきか否かの検証を怠ってきたことを反省しなければならないし、このコラムはそれを取り上げ、関係者の責任を追求すべきである。また今週東京で福島高校生が、彼らの測定結果、「福島の線量が高くない」とした発表に対する信憑性について、その道の権威者の見解などを紹介すべきにもかかわらず、それには触れず、「一ミリシーベルト根拠なし」の発言をした丸山珠代環境相の、その後の発言撤回を批判して居る。

⑤ 私は昨年八月二五日ご元東京大学特任教授・諸葛宗男氏が隔月刊雑誌・「歴史通」の九月号に書かれている「放射線リスク 流された四つのウソを正す」と題する論文で、東日本大震災の被災地域の安全性を説明されていることを紹介した(放射能被曝のリスク)。なお、それに関連して、放射能被害を恐れて他の地域に移住している人たちが、そのために余分な出費と精神的負担を余儀なくされているのは、全く無意味なことであることを述べたことである。

⑥ そして福島県は早急に諸葛先生を招聘し、先生に放射能被害の安全を確認してもらい、避難民を帰還させるべしと記したことである。しかしこのコラムを見ると、そうしたことは行なわれず、依然として同じ措置が続けられているということらしい。

⑦ こう考えてくると、被災地域の安全性は保たれて居るらしい。しかし、それを公表して居住者を移転先から帰還させることは、このコラムでも「民主党時代に除染や帰還の目安を決め、現政府も踏襲している。長期目標の根拠はあるし、人々が帰らない理由はさまざまで複雑だ」と記し、それ以上は触れないでいる。

⑧ 平成二五年五月二四日、私は当日の毎日新聞の次のような記事を紹介している。

(東日本大震災の被災地楢葉町から)いわき市に避難して来て仮設住宅に住む五六歳の女性は、いわき市の人から話しかけられ、楢葉町から避難して来たと伝えたら
「あんたらはいいよね。遊んでいながらお金が貰えるんだから」と言われた。以後楢葉町から避難していることは話さないことにしている。

⑨ これを見ると、被災者には、国からの補助金が支給されることになっており、その制度は今日なお継続されているものと思われる。被災地の安全が確認されれば避難の必要性は無くなり、補助金の支給も打ち切られることになる。どうもこのあたりに、関係者もマスコミもこの問題を「触らぬ神に祟り無し」としている原因があるのではないかと思われる。

⑩ 自分の懐が痛むのでなければ、それが社会的に正しくても、他人が不利益になるようなことは、見て見ぬふりをするのが日本人の一般的人情である。しかし、この補助金は税金で賄われているはずで、本当は国民一人一人の懐から出ている。この問題は当然マスコミが取り上げるべきことで、それをしないのは本務怠慢といわれてもしかたがない。

ramtha / 2016年5月16日