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七月十六日 「ニースのテロ事件について」

フランス南部のリゾート地、ニースで十四日夜花火大会の見物客にトラックで突入するテロがあり、八十人以上が犠牲となった。今朝の毎日新聞では「識者に聞く」と題して、次のように三人の有識者の意見が掲載されている。

吉田徹・北海道大大学院教授
フランス社会と国民は、日本人が想像する以上に無差別テロに対する耐性があると私は考えている。今回のテロ事件を受け、極度の混乱やパニックに陥ることはないだろう。一七八九年のフランス革命以降、常に、テロや戦争、内乱の脅威にさらされてきたからだ。

革命期の一七九〇年代。独裁者ロベスピエールによる恐怖政治で、多数の国民が粛正された。第二次大戦ではナチスードイツに占領された。一九五四年から六二年までのアルジェリア独立戦争では独立派によるテロやクーデター未遂が相次ぎ、八〇年代には、パレスチナ問題を巡るイスラム過激派によるテロがパリの中心部で起こった。

多くの仏国民は、昨年一月の週刊誌シャルリーエプド襲撃事件と十一月のパリ同時多発テロに続き、再びテロが起こると予想していただろうし、今後も起こると考えている。ただテロとの戦いに終わりが見えず、不安を抱いているのは確かだ。
今回の事件は革命記念日に起きた。記念日の意義が薄れており、国民の大多数はこの日をあまり特別視していない。だが、事件が仮にイスラム過激派による犯行だとすれば、「世俗主義社会への挑戦」が背景にあるのではないかと私は見ている。王政と結びついて権力を握っていたキリスト教会や聖職者から市民が権力を奪った「世俗主義革命」の記念日でもあるからだ。宗教的価値を絶対視する実行犯が、象徴的にこの日を狙った可能性はある。

ニースが事件の舞台となったのもうなずける。南仏には七〇年代以降、チュニジアを含む北アフリカから多くの移民がやって来た。ニースでは昨年、テロを計画していたとしてイスラム過激主義者が検挙されている。一方、仏国内全体の問題として都市部の若者の失業率が三〇~四〇%に上り、不満を募らせる者が多い。こうした土壌がある限りフランスでテロが続く可能性は高い。

板橋功・公共政策調査会研究センター長
今回のテロ事件は、外国人の観光客も多く集まるリゾート地の花火大会の会場周辺で起きた。外国人が犠牲になれば、大手メディアが必ず報道し、世界全体に与える影響も大きくなり、存在感を示せる。事件の背景はまだ明かではないが、実行犯はこうした効果を狙って行動を起こしたと見るべきだ

これは最近のテロ事件に共通した傾向だ。ベルギーやトルコで国際空港が狙われ、チュニジアでは観光客が多く集まる博物館周辺でテロが起きた。日本人七人が犠牲になったバングラデシュの人質テロ事件では、外国人向けのレストランをテロリストが襲撃した。

国内でテロが相次いだことを受け、仏当局は当然、テロを警戒していたはずだ。だが、今回のようにトラックで群集に突っ込むテロの手法は想定していなかっただろう。想定していたら、バリケードを築くなどの対策を講じていたはずだ。

以前は政府機関などを重点的に警戒すれは良かった。だが、最近のテロの標的とな。ている観光地などは世界中に無数にある。今回の事件を教訓に新たな対策をしても、テロリストは既成概念を超えた新たな手法でテロを起こすだろう。

テロの多くは、過激派思想に染まった若者によって引き起こされている。「イスラム国」(IS)などの過激派組織から直接指揮を受けているのではなく、勝手に行動しているから捜査当局の通信傍受に引っかかることはない。テロを完全に防ぐことは不可能だ。

一人でも過激な思想に染まった人間がいれば、世界中どこでもテロは起きる。日本も例外ではない。日本が開発援助などで海外の国の発展に貢献していても、外国人を狙ってテロを起こす若い世代は、そうした事実を知らない。外国人が狙われる以上、日本人が犠牲となることもありうる。対策は極めて難しい。

ピーターニーマン教授 英キングスカレッジ研究国際センター
フランスは過去二年間だけで、六~七件のテロ事件が起きている。テロを未然に防止する明確な解決法もなく、オランド大統領にとっては深刻な問題だ。

パリ同時多発テロでは、実行犯の多くはベルギーから国境を越えてきた。国境管理の強化が解決法のひとつになるかもしれない。しかし、今回、テロ事件が起きた南仏ニースは、イスラム過激派が生み出される地域として知られ、多くの過激派がISが支配するイラクやシリアに渡っている。

今回の事件が「ローンウルフ(一匹オオカミ)型」のテロリストによる犯行ではなく、ISが支配するシリアやイラクからの指令に基づいて行なわれたとすると、ISがイラクやシリアで聖域とする地域を(空爆などで)壊滅させることには意味があるかもしれない。しかし、現時点で、壊滅できるかどうかは誰も分からない。ISは、欧州などでテロを起こすことで、欧米の攻撃で被った代価を払わせようとしている。そうした意味では、イラクやシリアで(空爆を行なって)戦うことは、(ISの反発をさらに招くことになり)逆効果かもしれない。

問題は、フランスに住むイスラム教徒の多くは社会から疎外されていると感じていることだ。そのため、フランスからは欧州で最も多くの人がISの支配地域に渡航している。

パリ郊外に行けば、南仏と同様に、政府から見捨てられた地域があり、そこで暮らす人々は(若者だけでなく)全世代にわたって、フランスに帰属していると感じていない。テロ事件が起きる度に、こうした根本的な問題を解決することが難しくなる。

最も懸念するのは、今回のようなテロが起こると(国民が移民排斥など)極右の志向を強めて、そこに極右政党の国民戦線がつけこむことだ。イスラム教徒はさらに疎外されていると感じ、現状をさらに分断させる。

以上三人の見解を読んで教えられたこと、また考えさせられたことを、私なりに整理してみる。

① フランス革命など旧制中学の西洋史で習い、フランスが革命の本家とは思っていたが、とてもそんなことではなく、今日に至るまで気の休まる時が無いほど動乱続きの社会であることを、初めて教えられた。

② 不勉強な私は欧米各国もフランスと同様に、知らないことばかりであるが、フランス程ではないにしても、戦後七十年以上も戦争の無い平和な日本のわれわれとは違った時間を経過してきたに違いない。

③ しかし、戦後日本の平和はアメリカの核の傘の下で守られてのことで、真の独立国家であったなどとは言えない。世界の警察官を自負してきたアメリカに疲労の影が垣間見え、世界第二の大国に躍進して来た中国の傍若無人な行動が目に余る昨今、日本は果たして如何にあるべきか考えさせられるところである。

④ それにしてもテロの多発は驚くほど増えている。テロの定義を広辞苑に尋ねてみると、「あらゆる暴力手段に訴え政治的敵対者を威嚇すること」となっている。しかし、私の語感からすると、真面(まとも)な戦いでは勝てない相手の不意を突き、敵の陣営を攪乱する手段で、ゲリラのさらに先鋭化したものの感じがある。いずれにしても窮鼠猫を噛む類であると思われる。

⑤ 最近のテロはその大部分がイスラム教徒が引き起こしたもののようである。なぜだろう、イスラムは分かり難いテーマで、前に六月一七日「イスラムとは何ぞや」で調べてみたが、私の頭脳の粗末のせいか、未だに良く分からない。今、私の理解しているイスラムは、政治未分離の思想で、全知全能の唯一神アラーを信じ、開祖ムハンマドの残した聖典コーランの定めを一五〇〇年後の今日も、忠実に守るものらしい。

⑥ 一神教の排他性が、政教未分離なるがゆえに、特に顕著で、他の宗教の存在を認めず、敵視し、これを撲滅することをジハード(聖戦)と称し、信徒の義務としているようである。

⑦ 想像するに、ジハードで戦死した者は、英雄として天国へ迎えられ、栄光と幸福な暮らしが約束されているのではあるまいか。今世界各地で自爆テロをしている若者たちは、みんな天国での幸せな暮らしを夢見て、率先して参加しているのではなかろうか。私にはそう想われてならないが、どうだろう。

⑧ 今一つ分かり難いのに中国がある。今のところ中国とイスラムとは無関係のようであり、中国の国内でイスラムテロが発生したとも聞かない。しかし、イスラムテロの拡大はやがて中国にも及ぶのではと想われる。さて、その時、中国がどのような対応をするか、これは見ものと想われるが、残念ながら残り少ない寿命では諦めるほかは無いだろう。

ramtha / 2016年7月29日