もう半世紀前のことになるが、社命で生産性本部主催のアメリカ企業視察団の一員として参加したことがあった。その時、国鉄の早田氏と二人で、デトロイトの郊外を路線バスで見て回ったことがあったが、その折、黒人ばかり住むブラックタウンに紛れ込み、一種異様な恐怖感の如き雰囲気に包まれたことがあった。また、同時に白人の居住区と黒人のそれは截然と別れ住んでいることも教えられた。
アメリカは白人・黒人やヒスパニックの他、世界各地からの移民も多く、かねて人種差別の無い国と思っていたが、現実は多民族のモザイクで、異人種の融合は遠い夢に過ぎないことを知ったことであった。
しかし、二〇一〇(平成二二)年、黒人のオバマ大統領の出現で、アメリカの多人種の融合は、遂にここまで来たかと驚きかつ歓迎したことだった。
ところが、最近黒人青年の白人警察官襲撃事件がアメリカ各地で頻発している。またこれを取り締まる警察官の行為に対する抗議デモが全米各地で頻発している。そしてその原因が、白人警察官の行き過ぎた黒人への対応と聞かされ、人種差別の根の深さを、またも思い知らされた。
デモの最中にも警備警官とデモ参加者とのトラブルも多いという。そんな時たまたま私が見たテレビの画面では、白人警察官が二人がかりで黒人青年を地面に押さえつけ、無抵抗になっている黒人にピストルを突きつけ、発砲射殺している場面が映し出されて居た。ナレーションでは、警官が職務質問をしたとき、被害者が上着のポケットに手を入れていたから「武器を持っていると誤解したのでは」と説明されていた。
私の人種差別解消への期待は、またも無惨に裏切られ、ただただ、暗澹たる気分の底に落とし込まれるばかりであった。
他方、最近は中東情勢の混乱から、比較的安定している∃ーロッパヘ避難しようとする多くの難民があとを絶たず、その対応に欧州各国が頭を悩ましているらしい。
最初は移民受け入れに寛容であったドイツも、あまりの多人数とトラブルに国民の不満も少なからず、また、右派政党の政府批判の材料とされるなど、この問題の処置に困惑しているようである。
さらに、経済の不況、失業者の増加などによるものか、ヨーロッパ各国で右翼の台頭が伝えられている。
また、イギリスの国民投票で思わざるEU離脱が現実のものとなるなど、人類は協調と団結より、独立と人種差別の方へ舵を切ったような動きを見せている。
過去の歴史を顧みても、安定期より混乱期の方が多く、比較的安定期と思われた二〇世紀後半から、二一世紀は動乱の様相が予感されるのは、私だけだろうか。
ramtha / 2016年8月20日