家内の見ているテレビは何だろうと覗いたら、火野正平の「こころ旅」があっていた。ふと「旅」という字の語源は何だろうと気になった。
「旅」は漢和辞典では「方」の部にあるから、てっきり、方十衣の会意文宇であろうと考えた。そこでまず、「方」の解字を調べてみた。すると白河先生の「字統」には次のように説明されている。
方{ホウ=かた・さらしもの・とっくに}は、横にわたした木に、人の屍を架けている形の象形文字である。これを境界の呪禁(まじない)とする。方は方外の国や遠方・方位の意に用いられるのは、方が架屍祭梟(さらし首)の風習を示し、これをその境界の呪禁としたからである。
これを見ると大昔は、集落外の人は、何をするか分からない危険人物で、村の中に入ってて来ないように、外に通じる道の出入り口に、「入って来たらこんな目に遭うぞ」と脅(おど)すために、晒し首を下げていたことだろう。
ここから方位、方角、遠方、方面、方言などの熟語が出来たことだろう。
今度は「旅」そのものを「字統」に尋ねることにした。すると「旅」の左側と右上部は、ふきながし・旗(はた)の象形文字で、村境に架ける晒し首の「方」とは、全くの別ものである。
右側下部の「衣」に似た形は、もと「从」で複数の人を表わしている。だから「旅」は旗を掲げた人の集団がどこかに出かけているさまを示した会意文字ということである。
大昔は人々が集団で移動すると言えば、軍事行動であり、先頭に味方の目印となる旗を掲げていたに違いない。それが「旗」の原義であり、のちに行楽的旅行へ広がったものと思われる。そういえば今日でも、旅行会社が企画する団体旅行も、女性ガイドが持つ旗を目印に人々かぞろぞろついて行く光景が見られるが、あれが「旅」を端的に表わしていると言えよう。
(漢字事典-OK辞典より転載)
ramtha / 2016年9月14日