腰痛、肩こり、膝の痛みなど、どれもつらい症状ですが、その中でもなかなか治りにくいのが「四十肩・五十肩」です。腕が挙がらない、手が背中に回せない、夜中に疼く、力が入らないなどやっかいな症状が起きます。2年も3年もつらい症状で困っている方もあります。肩や腕の動きには、様々な筋が関与し、互いに影響し合っていますので、一カ所を弛めれば改善できるという訳に行きません。
四十肩、五十肩で医療機関を受診して『肩腱版』に断裂が認められた場合、これが痛みの原因だとされる事があります。肩腱版とは肩を動かす四つの筋腱(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の総称です。これらの筋腱は肩甲骨と上腕骨を繋ぐ役目を持ち、トリガーポイントが生じた場合「肩の痛み」「腕の運動制限」「関節の異常」に深く関与します。
しかし、この腱版は加齢と共に変性断裂がみられる事が分かっていて、肩に痛みが無い無症状の人でも、50代では約25%に、65歳以上では50%以上に変性断裂がみられると報告されています。(日本整形外科雑誌第78号 第4項)
このような研究がありますので、65歳以上の方が五十肩の症状で受診され、肩腱版の断裂がみられた場合、果たしてそれが原因だと言い切ることはできないのです。
下表のように肩や腕の動きには様々な筋が複雑に絡んでいます。どの動作で痛みが生じるのか?どの動作がし難いのかを確認すると、最も障害を受けている筋が見えてきます。
関与筋 | 屈曲 | 伸展 | 外転 | 内転 | 外旋 | 内旋 |
大胸筋鎖骨部 | ○ | ○ | ○ | |||
〃 胸肋部 | ○ | ○ | ○ | |||
烏口腕筋 | △ | △ | ||||
肩甲下筋 | ○ | ○ | ○ | |||
三角筋 前部 | ○ | ◎ | ||||
〃 中部 | ◎ | |||||
〃 後部 | ○ | ◎ | ||||
棘上筋 | △ | |||||
棘下筋 | ○ | |||||
大円筋 | △ | △ | △ | |||
小円筋 | ○ | |||||
広背筋 | ○ | ○ | ○ |
下表のように傷む場所からどの筋がトラブルを起こしトリガーポイントが生じているかを推定することが出来ます。
痛む場所 | 肩 前部 | 肩 後部 | 上腕 前部 | 上腕 後部 |
肩甲挙筋 | ◯ | |||
斜角筋 | ◯ | ◯ | ◎ | ◎ |
棘上筋 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
棘下筋 | ◎ | |||
広背筋 | ◯ | ◯ | ||
大円筋 | ◯ | ◯ | ||
肩甲下筋 | ◯ | ◯ | ||
三角筋 | ◯ | ◎ | ◯ | ◯ |
上腕二頭筋 | ◯ | ◯ | ||
上腕三頭筋 | ◯ | ◯ | ||
上腕筋 | ◯ | |||
大胸筋 | ◯ | |||
小胸筋 | ◯ |
注目していただきたいのは、「斜角筋」と「棘上筋」です。肩や上腕の痛みに全て関わっています。
斜角筋は下図のように首の側面にある筋ですが、上半身のさまざまな症状に関与していると言われているほど重要な筋です。 肩や腕の痛みにも必ず関わっていると考えてもよい筋です。
(斜角筋)
【イラスト図出典:『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用】
棘上筋は下図のように肩甲骨上の小さな筋ですが、肩や腕に関連痛を発することが多く、肩や腕の治療では必ずチェックしなければならない筋です。
(棘下筋A) (棘下筋B)
【イラスト図出典:『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用】
腹部臓器は横隔神経および横隔膜を介して、上肢の疼痛症候群に極めて有害な影響を及ぼす事があります。例えば悪い食習慣(食べるのが早い、冷たい飲み物、不規則な食事)などによって、内臓の機能障害を起こし、関連痛やトリガーポイントを上肢、肩甲帯、頭頸部に引き起こします。
従って、全体のバランス調整や症状に関与が推定される筋・筋膜への治療を行っても効果が出にくい場合や、一旦効果がみられても再発しやすい場合は、内蔵機能障害からの影響を疑わなければなりません。内装機能障害が影響を与えている場合は、内蔵機能回復テクニックを行い、食習慣を改善して頂くことで大幅に緩和されます。
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